「ドクターヘリ共同運航」

医療・健康 テクノロジー

兵庫県

2011年9月1日(木)

 東日本大震災の救助活動でも活躍したドクターヘリ。災害時や交通の便が悪い場所で力を発揮する救命救急システムです。平成23年8月現在、ドクターヘリの導入数は23道府県に27機。ニーズはあるものの、その維持費が大きなハードルとなり、導入には慎重な姿勢をとっている自治体が多いようです。しかし、平成22年4月、行政の枠を超えてドクターヘリの共同運航を始めた地域があります。全国一の出動件数で多くの患者を救うフライトドクターに密着しました。

「希都菜の感想」

 医療系の取材を何度もしていますが、公立豊岡病院の但馬救命救急センター長、小林誠人さんの話をうかがっていて、救命救急の場合、1分1秒が大切なのだと改めて感じました。そして、但馬救命救急センターのチームが数多くの経験を積んでいて、いかにトレーニングされているかが伝わってきました。見て→聞いて→瞬時に判断ということが体に染みついている方々なのだと思いました。

「希都菜のギモン?」~共同運航のメリットは?~

 ドクターヘリの維持費は、どの自治体にとっても大きな課題です。年間およそ1億7千万円から2億円かかります。機体のリース、メンテナンス、燃料、パイロット、格納庫などの費用負担が必要です。ドクターヘリの維持費は、国と道府県が財政に応じて割合を決めるのですが、、県にとっては1億円近い費用はかなりの財政負担です。そこで、兵庫、鳥取、京都の3府県で共同運航をしようという案があがりました。

 それぞれの府県の負担額は、ヘリの利用実績を反映して計算されます。公立豊岡病院の搬送先(府県)別の運航実績は、平成22年4月17日~平成23年3月31日の場合、兵庫県64%、京都府11.4%、鳥取県7.9%で、出動要請件数は1,118件でした。公立豊岡病院の但馬救命救急センターでは、日々の活動記録をブログで公開しています。

「但馬救命救急センター ドクターヘリのカバーエリア」

 実は、兵庫県にはもう2機ヘリコプターがあるのですが、太平洋側にあることと、防災ヘリや消防ヘリで医療専用ではないことなどから、実質的には、兵庫県北部での医療活動に使用することはできません。また、兵庫県の中部にある山間部は天候の変化が大きいため、ヘリコプターでこの山を越えることが難しい時が多いそうです。公立豊岡病院を中心とする3府県の共同運航で、兵庫県北部、京都府北部、鳥取県z全域をカバーしています。日本海側にドクターヘリが導入されたことで、より多くの患者が救われることが期待されます。

 兵庫県北部の但馬地方で、重傷救急搬送を受け入れることができる病院は、公立豊岡病院のみです。救急車で1時間以上かかる場所にも行かなければなりません。ドクターヘリの導入によって、患者のもとへ医師と看護師が行き、初期治療を早く始められるようになりました。その結果、小林さんたちのデータによると、重症外傷の生存率は2〜3倍に向上したそうです。

「希都菜の発見」~医師が2人で救命率アップ~

 患者の救命率アップには、他県と異なる大きな仕組みがあります。但馬救命救急センターのドクターヘリには医師が2人乗っているのです。それがどういう意味なのか、どんなメリットがあるのか、小林さんにうかがいました。

 もともと、フライトドクターの人材育成が目的で、小林さんは医師2人体制のドクターヘリの運航を始めました。救急医療の経験がある医師であっても、フライトドクターは、狭い場所で限られた医療機器で治療をしなければならず、実務を通して先輩が後輩を指導するOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)で経験を積むことが必要でした。そこには思いもよらない効果があったのです。

「別の要請が入り、小林さんはドクターヘリを降りて別現場へ」

 ビデオでのケースのように、患者の初期治療をして病院へ搬送するまでの間に次の要請が来ることがあります。その際、ドクターヘリに乗っている2人の医師のうち1人がランデブーポイント(ヘリと救急車が落ち合う場所)で降りて、次の現場へと向かいます。残った医師が、患者の初期治療をほどこし、医師が付き添って、近くの病院に搬送されるので安心という流れです。つまり、ドクターヘリ1回の出動で、2人の患者を救うことができるわけです。医師2人体制によって、効率化が図られ、患者救命率アップにつながっているのです。

「希都菜のギモン?」~ドクターカーと救急車の違いは?~

「ドクターカー」

 小林さんは、1秒でも早く患者のもとへ行くことを最優先に考えておられます。そこで、平成22年12月に導入されたのが“ドクターカー”です。ヘリコプターは、風雨の強い時、日の出前、日没後は出動できません。しかし、急患は24時間発生します。ヘリが出動できないときは、ドクターカーで医師と看護師が患者のもとへかけつけるのです。救急車は、患者の搬送が主な使用方法で、乗っているのは救急隊員です。救急隊員が行える処置には限りがあり、積んでいる医療器具などの備えも異なります。

 ドクターカーは、同じように車で患者のもとへ行くのですが、大きな違いは初期治療を始める時間です。例えば、救急車で病院から10分離れた現場へ患者を迎えに行って、病院へ搬送すれば、初期治療の開始まで往復20分がかかります。しかし、ドクターカーで、医師が現場に向かえば、片道の10分で初期治療を開始できます。この時間の短縮が、患者の命を救い、その後の回復も、後遺症への影響も大きく左右するのです。

 公立豊岡病院は平成23年8月25日、ドクターヘリが飛ぶことができない時のみの限定運用だったドクターカーを10月上旬から常時運行させ、ヘリと並用運用すると発表しました。当面は日中のみの運行ですが、12月から早朝や夜間も運用し、但馬地方の救命救急体制の充実を図ることになりました。平成23年4月に救急医が3人増えて計12人となったため、ヘリ2人、カー1人の輪番で担当できるそうです。

「きょうのキズナ」~キーワード~

 ドクターヘリも、ドクターカーも、病院だけで運用できません。消防からの要請があって初めて出動できます。消防との連携が早い出動には欠かせないのです。小林さんは、ドクターヘリの意味、初期治療の重要性、ヘリ要請の流れなどを説明するため、兵庫、鳥取、京都の消防へ、運航開始まで、毎日足を運んだそうです。

 どのような場合に要請をしたらいいのか、医療従事者でなければ即時の判断は難しいため、小林さんは、“キーワード方式”を導入しました。

  • 自動車事故の場合:「とじこめられている」「車体が大きく変形している」など
  • 窒息事故の場合:「溺れている」「生き埋め」など
  • 心肺、呼吸停止などの場合:「息ができない」など

 119番通報を受けた際に、これらの言葉があれば迷わずドクターヘリを要請してほしいと、小林さんは消防の方々に説明されました。その結果、ドクターヘリの出動まで4分という早い対応が実現できたのです。

「きょうのナルホド」~地方こそドクターヘリ~

 小林さんのお話では、都会には重症に対応できる専門病院がたくさんあるけれど、豊岡病院を中心とするエリアは、他に救急対応ができる病院がないそうです。つまり、すべての患者をここで受け入れているわけです。地域の人もそのことはよく分かっているので、ランデブーポイントや、ドッキングポイント(ドクターカーが停車するポイント)として、公園や校庭、コンビニの駐車場などを快く提供してくれているそうです。住民自らが、自分たちの医療のために、但馬救命救急センターや消防に協力して、地域医療を守っているのだなと実感しました。

「小林誠人さん」

 病院までの距離が遠くても、ドクターヘリで医師と看護師が現場へ出向むくことで、救急医療に関しては解決される部分があります。小林さんは、「地方こそドクターヘリなんです。」とおっしゃっています。

 但馬救命救急センターを中心とした3府県の取り組みを参考にすれば、費用の面でのハードルがずいぶん下がります。現在、まだドクターヘリが導入できていない県はぜひ参考にしてください。行政や市民、病院の垣根を越えた地域医療体制が整って行くことを願います。

今回の取材協力先

公立豊岡病院 但馬救命救急センター   Email: teccmc@gmail.com
認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)

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「救急ヘリ、出動せよ!」   2010年10月1日
「翼をください」   2010年11月12日

 

投稿者:平川 希都菜 |  投稿日時:2011年9月1日(木) 00:00

コメント

「地方こそドクターヘリなんです」という小林さんのコメントは、とても納得感があり、印象的な言葉ですね。地方の医者不足が心配されるようになってから久しいですが、豊岡で実施されている取り組みは、この問題を打破する1つの方法だと思いました。「ドクターの2人体制」や「キーワード方式」は、とても効果的なアイディア。この方法が全国に広がって、より多くの患者が救われることを期待したいです!

投稿者:地行弘憲 |  投稿日時:2011年9月19日(月) 15:35

希都菜ちゃん、お疲れさま。俺も地行さんの意見と同感だな。地方では医師不足といわれているけれど、都会と地方で医療面で差があってはならないと思う。このドクターヘリは画期的な方法で維持費等の諸問題はあるけれど、全国に広がっていってほしいなと思います。

投稿者:車出 郷 |  投稿日時:2011年9月28日(水) 14:29

共同運航の取組みが全国にもっと広がるといいですねぇ~。しっかりした拠点病院を作って専門医を確保する、そこにドクターヘリなどで患者を急送する。。。経済合理性、医師不足、予算不足etc.といった様々な問題を解消するひとつの答えなのかもしれない、と思いました。

投稿者:コウサク |  投稿日時:2011年10月7日(金) 13:42

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